新しい上製本の世界へ。新里製本所インタビュー
こんにちは、CI部員の辻です。
今回は、昨年にBABA-BASEで製本体験のワークショップを開いてくださった「新里製本所」様を訪問し、これまでに作ってきたいろいろなサンプルを見せていただきながら、お話をうかがってきました。
都営三田線・春日駅からほど近くの住宅街にある小さな製本所。
足を踏み入れると、長年使い込まれた風情の製本機が規則的な音を立てている中、ひときわカラフルな花切れ(背につける飾り布)の棚が目に入りました。
ここだけユザワヤ(手芸用品店)みたい…!
心ひかれながら別室へ案内されると、そこにはもっと自由で彩りあふれるサンプルの数々がありました。
昭和9年の創業以来、上製本(ハードカバー)を主軸で手がけてきた同社。2017年に社長に就任した新里さんは、「手に取る人に寄り添う、高品質な本づくり」という創業当初からの想いを受け継ぎながら、表紙に多種多様なテキスタイル(生地)を用いるなどの手法を提案し、上製本の新たな可能性に挑戦し続けています。
「人と話していると、『○○(既存のもの)に対して、たとえば●●を掛け合わせたらおもしろいんじゃないか?』というブランディングのアイデアがどんどん浮かんできます。これまでは重厚感のある色を使うことが多かった上製本に、アパレルで使われる鮮やかなテキスタイルを掛け合わせて、『見るだけで、持つだけでうれしい』という新たな価値をつけたのが、『HONcept』です」
「HONcept」は、「テキスタイル×上製本」というコンセプトで新里さんが起こしたファクトリーブランド。手触りのよいサテン、華やかなリバティプリント、かわいらしいネコ柄などの生地を表紙に使ったノートで、持つ人の心を豊かにするデザインになっています。
「製本業界に限らずですが…ものづくりの人というのはなかなか表に出ないので、異なる業界との接点がなく、イノベーションが起こりにくいところがあります。私は上製本でもっと何か新しいことができないかずっと考えていて、業界を問わずいろいろなものに目を向けてきました」
「関東圏のショッピングモールはすべて頭に入っている」と笑う新里さん。人の集まる「場」に足を運び、どんな出会いが生まれているのかを見てきたといいます。
「HONceptの最初の展示会をするにあたっていろんな場所を検討し、これ以上はないと思えたのが『蔦屋家電』でした。ここは優れたデザインに価値を感じる人たちが集まり、買うだけでなく『みる』『体験する』場所でもあります。まずは売れなくてもいい、実際に手にとってもらいたいと考えました」
「HONcept」ブランドデビュー展を開催|新里製本所(東京都文京区) (niizato.jp)
「これは展示会で『売っていないのですか?』と多くのお問い合わせをいただいた、ウェディングドレスの生地を使用したものです。宮下織物という、富士山麓にある伝統的な織物の老舗と共同で制作しました。
展示会をきっかけに、製本とは関係のない業界の企業様から、『こういったものを作りたい』というご相談も少しずついただくようになりました」
「これは木目模様の紙ではなく、本物の木をスライスして貼っています。反りなどもあり扱いやすくはないのですが、プリントにはない風合いがありますね。ナチュラルなイメージのノベルティにはもちろん、文集やアルバムなど記念品としての需要も高いと思います。
こうした売り方のアイデアもデザイナーや企業様と話したり、作っているうちに思いつくことが多いです。最近の私は上製本だけでなく、本や紙に関する総合相談窓口になっています(笑)」
近頃は取材を受けることも増えてきたといいます。「表に出るのはもともと得意ではないのですが…ものづくりの人たちのために頑張っているという感じです」
新里さんと普段接している広研の営業社員は、「(社長と話すと)元気になる、自分にとってのカンフル剤のような存在」と話します。インタビュー中も輝く目で楽しそうに答えてくださったのが印象的でした。これからもあふれるバイタリティと広い視野をもち、業界の枠を超えて活躍されることを楽しみにしています。
今後ともよろしくお願いいたします!ありがとうございました。
新里製本所|昭和9年創業・文京区の製本所 (niizato.jp)